2005年07月27日(水)

ポンちゃん─後編─


宵闇がせまる頃、先に帰宅した母からメールが。
「あの子、鳴いてるんだけど。胸が痛い。どうしたらいいんだ(汗)」

やはり、、、まだ居たか。
あの子とは、そう。ポンちゃんだ。

家路に急ぐ。
んで、マンションの下に佇んでいる母発見。
「ずっと鳴いてるのよぉ。もーやだぁ〜」と困り顔。

私もまた悲鳴を聞かされるのはイヤだ。
今夜も眠れなかったら死んじゃう。

残る望みはひとつ。
工事現場の作業員のにーちゃん達だった。
彼らなら、道具も持っているし、力はありそうだし
何かしてくれるんじゃないかと思った。

そこに通りかかった1人の作業員のにーちゃん。
(以降略、作業員A)
こちらから声を掛けようと思ったら
「何かあったんですかっ?!」
と逆に声を掛けて走ってきてくれた(かのように見えるくらいかっこよく登場)。
まだ何も解決していないのに、このひとことで暗く深い沼から救い出された気分になった。
(なぜ沼にハマっていたかは─ポンちゃん前編─を読んで欲しい)

そこで、今朝あったことをひと通り話し、じゃあどうしましょう?ということになった。
とりあえず鉄柵を開け、ポンちゃんが居る事を確認。
お腹が空いているだろうということで、母が持ってきたチョビ様用の笹かまを投げた。

タヌキって雑食なんですよね〜ケラケラケラと笑いながら
3人で排水溝を覗いていると、そこの他の作業員&事務員が
「どーしたっ!?ナニナニ。タヌキ?えー!!」
という感じで、あっという間にオーディエンスが10人近くになってしまった。
やはり東京のど真ん中でタヌキは珍しいのだな。
しかし、こんだけ人が集まると、心強い。

懐中電灯でポンちゃんを照らしながら、しばし観察。
ポンちゃんはまだまだお腹が空いている様子。


作業員B:「チーズで誘い出して捕まえるか!」
作業員A:「なんでチーズなんか持ってるんだ」
私:「、、、つまみですか?」
作業員B:イェーイのポーズ(すごく笑顔。激しくハイテンション)
作業員Bは、近所で一杯やってきたらしくすでに顔が赤かった。
事務員のおねえさん:「まぁた呑んできたの〜?」
作業員A:「とりあえず(チーズ)投げろ」
作業員B:「オレ、捕まえるから足持って逆さ吊りして!」
母:「逆さ吊りしたら排水溝に顔がハマっちゃわないかしら」
私:「いや、排水溝より顔のほうがちっちゃいでしょ」
母:「このままココから出てこなかったらどうしよう」
私:「そしたらもう観察日記つけるしかないね。”タヌキと私の夏休み 2005summer”とかって」
作業員D「じゃあ名前付けないとダメっすね」
作業員C:「タヌキってニックネームつけにくいよね。タヌちゃんとか?」
事務員のおねえさん:「タヌキだからポン太でしょ」


こんな会話をしながら、役割分担が決まった。
懐中電灯でタヌキを照らす係(1名)
餌を投げる係(1名)
タヌキを捕まえる係(1名)
応援する係(複数名)

ポンちゃんは人慣れしているのか、下水道から全身を出すことはしないが、顔は普通に出してこっちの様子を伺っている。

エサを投げ、ポンちゃんの体が出てくるのを待つ。
エサを取りに出てきたポンちゃん。
今だっ!!と手を入れた瞬間、目にも留まらぬ速さでエサを取って隠れた。
下水道から食べている音だけが響く。

こんな事を何度も繰り返したが、やはりポンちゃんは捕まえられない。

作業員A:「ココのふた(鉄柵)、開けといて自然に逃げるのを待ちましょうか」
事務員のおねえさん:「危なくない?酔っ払って落ちちゃう人いるかも」
作業員B:「オレとか」
事務員のおねえさん「そうそう」


結局、工事現場で使っているカラーコーンを排水溝の脇にひとつづつ置き、コーンバーでそれを繋いで境界線を作る事になった。
そして、排水溝の鉄柵を開けっぱなしにする代わりに、網目の細かいフェンスをタヌキが外に出られるくらいの角度にして、かぶせた。

作業員A:「じゃ、1時間くらいこのままにしとこうか」
事務員のおねえさん「そだね」
母&私:「色々して頂いてありがとうございました(ぺこぺこ)」
作業員A:「いえいえ。では、とりあえずこのままということで」
母&私:「はい。ありがとうございます(ぺこぺこ)」


日中外で働いて疲れているだろうに、1時間も付き合ってくれた工事現場の皆さんに感謝。

一同解散後、家に戻って時計を見ると20:30を過ぎている。
「うぅ・・・タヌキと同じくらいお腹すいたかも・・・」

そして、夕飯を食べたあと、テレビなんぞを見て食休みする。

子の刻。
疲れたし、お風呂入って寝るか。。。と思ったその時。
私のベッドに伸びていた母が「タヌキッ!タヌキが外に出てる!」と叫んだ。

ベッドの横の窓から外を見てみると、ポンちゃんが外に出ていた。
恐る恐る歩いていたが、人の気配がないことを確認したらしく
なにやら猫の様にコーンに気持ち良さそうにスリスリしている。
(朝からずっと思っていたことがある。
ポンちゃんは本当にタヌキなんだろうか?
私にはハクビシンにもアライグマにも見える。
でもみんなが「タヌキだ!」というのできっとタヌキなのだろう。)

「ポンちゃん、逃げろ!とりあえず近くの公園にでも行け!」
と遠くから念力を飛ばした。
(シャッターチャンス!と思ったのですが、ベランダから撮った写真にはポンちゃんの光る目しか写りませんでした ^_^;)

ポンちゃんは隣の家の車の下やあたりを見回してから、公園へ続く細い道に入り、トットコ闇の中に消えていった。
「プハ〜。よかった・・・。」
こうして、排水溝に閉じ込められていたポンちゃんは、自由の身となったのでした。

このあと、ポンちゃんが仮に交通事故にあったり、他の誰かが通報して捕獲されたりしても、それはそれでしようがない、と思うほかない。
ただ、早朝呼んだ警官のように「このまま排水溝から出さずに餓死させたほうが捕獲するより動物にとってはいいかも」というニュアンスで言葉を濁し、実際何もせずに帰ってしまう行動は、警官である前に人間としてどうなの?と思った。

一番の願いは、大きな公園か近くにある森で暮らせるようになること。
タヌキって人なつこいっていうし、棲みついた先の近所の人たちとうまく共存できたらいいのになぁと思うのです。
ポンちゃんの未来に幸あれ。

それにしても、工事現場の人たちは人情味溢れるあたたかい方ばかりだったです。

■タヌキの参考画像
動物と写真のサイト:Kazoo様よりお借りしています。
No.446 ちぐはぐな感じ。 天使

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